先日、モノ書き仲間のKさんにお誘いを受け、俺は、千早赤阪村のあるイベントに参加した。
そのイベントはバンブー祭りといい、地域の竹問題とその解決に取り組んでおられるIさんと千早赤阪村を盛り上げようと様々な活動をされているSさんが協賛となり、実現したものである。
参加されたお客様も色々な地域の方たちがいらっしゃり、俺は最初、皆、千早赤阪村の方だと思っていたのだが、千早赤阪村の方はほんの一握りで、そのほとんどは村外の方であった。
俺と同じように知り合いから誘われという方が多かったように思う。俺はKさん以外は全く知らない方ばかりだったので、初めは借りてきた猫のようにおとなしくしていたのであるが、次第に皆と打ち解けてくると話も弾み、楽し時間を過ごさせてもらったのである。
イベントと言っても、特にタイムスケジュールのようなものは無く、一応、15時から20時までとなっていたが、まあ、それはあって無いような感じで、それぞれが勝手におしゃべりを始めたり、竹細工を作ったり、外に遊びにいったりと、好きなことを好きなようにする、ゆる〜い時間が流れていったのである。
四六時中パソコン画面と対峙している俺は、この村時間のようなものが、とても懐しかった。それは子供の頃、祖母の家で過ごした夏休みを思い起こさせた。
あの時も時間は雲のようにゆっくりと流れ、俺は弟といっしょに一日中笑顔を浮かべていたのだ。
見せたいものがあると言って、Kさんが、俺を庭に連れ出した。
それは、Kさんが昔大変お世話になった方が作られた木製の階段であった。
庭から下の田んぼに降りるために作られたその階段は、雨風にやられ今は段が落ちて、使われていないとの事である。
今回のイベントの目的のひとつに、Kさんがお世話になったその方のご冥福を祈るというものもあった。その方は昨年末に亡くなったそうである。Kさんにとってその方はまるで父親のような存在だったらしい。
俺の横でKさんはその朽ちた階段を見つめ、雨の中、一人で黙々と作業をしていたその方の事を思い出していた。その方はそうやって人に喜んでもらう作業をする事がとても好きだったらしい。
俺は、彼女のそんな思い出話を横で聞きながら、会ったことの無いその方の事をぼんやりと考えていた。
庭の下には田んぼが広がり、青い稲がそよそよと風に吹かれている。その直ぐしたには川が流れているようだが、草木に阻まれて見ることができない。目を上げると目の前に山が見える。それはまるで緑の壁のようだ。その壁の上には、金剛山に向かう立派な道路が作られており、時たま猛スピードで車が走る。俺も金剛山への登山では必ず走っていた道だった。
ここからそんな景色を眺めていると、自然と優しい気持ちになり、身体がゆっくりと癒やされていくのがわかる。
彼女がお世話になったその方も、きっとこの景色を見ていたことであろう。
それは、その方の目にどれほど美しく映ったことであろうか。
俺は星になったその方のご冥福を静かに祈った。
蔵に戻る際、ふと空を見る。青空の中トンボが一匹、音も立てずに舞っている。俺は一瞬目を閉じ祈る。再び開いた眼にトンボはおらず、突き抜けるような青空がただただ広がっていた。
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